番組レポート

深宇宙展担当者が番組の放送内容を詳しくまとめました!
火星の知られざる姿を覗いてみませんか。

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大切なことは火星がおしえてくれた

<NHK総合>3月30日(日)放送

今も、2日に1回以上のペースで、世界各地から打ち上げられるロケット。
私たち人類は、宇宙にものを運び長期滞在できる技術を手に入れてきた。
そして、今、新たな挑戦を始めようとしている。
舞台は「【火星】」だ。

映像提供:NASA/JPL-Caltech/USGS

重力は地球の1/3で大気のほとんどが二酸化炭素。
磁場が弱く、放射線が降り注ぎ、巨大な砂嵐も襲う過酷な環境だ。

なぜ、わざわざ過酷ともいえる挑戦をするのか?
専門家たちは・・・・

『【火星】に魅了されるのはなぜか?それは、何事も当たり前じゃないと思わせてくれるからです。』 (マサチューセッツ工科大学ヘイスタック天文台 マイケル・ヘクト博士)

『私たち人間には冒険のDNAが組み込まれています。どんなに険しい道でも、宇宙に興味を持たずにいられないのです』(NASAエイムズ研究所 リン・ロスチャイルド博士)

と答え、実際にさまざまな研究から、革新的なアイデアが次々と生まれている。

つまり、【火星】は、人類を次のステージに導いてくれるかもしれない存在なのだ。

Chapter1 人類は宇宙でひとりぼっちなのか

映像提供:NASA/JPL-Caltech(左)
NASA/JPL-Caltech/Cornell University(右)

今も昔も、「【火星】」は私たち人類の想像力をかき立ててきた。

映像提供:NASA

【火星】表面の画像に、思わず人や人工物を重ねる事例は今もあとをたたないが、20世紀の科学者、パージバル・ローウェルは徹底していた。イタリアの天文学者スキアパレッリが描いた【火星】の地図の中にある線を「人工的につくられたもの」と考え、【火星】観測に明け暮れた。

そして、「人工的な線は火星人が作った運河である」と結論づけたのだ。

ローウェルはその後本を出版。その中で「火星人は肉体の限界を超えるほどの頭脳を持つはずだ」と記した。
この考えに大いに刺激を受けた当時のSF作家たちは、地球外生命を具体的に描き、人々の想像力をかき立てていった。


映像提供:NASA/JPL(左)

現在。私たちは、【火星】を直接探査できる時代を生きている。
そこから、【火星】の驚くべき姿が浮かび上がってきている。
2021年に着陸した探査車・【パーシビアランス】。4年以上にわたって、30km以上の距離をゆっくり動き回りながら、岩石の写真を地球に送り続けてきた。

その画像全てに目を通してきた、カリフォルニア工科大学のケン・ファーリー博士は、ある日とても奇妙な岩石を目にした。

映像提供:NASA/JPL-Caltech/MSSS

画像に写っていたのは、【火星】では見たことがなかった「斑点模様」。
詳しく分析すると、鉄と酸化鉄が多く含まれる部分の境界にあったのは「リン酸鉄」だった。
ファーリー博士は、ここに特別な意味があると考えている。

『地球上ではリン酸鉄は微生物と非常によく関連しています』

地球では、リン酸鉄は、微生物の活動で生まれる物質としても知られている。もし、【火星】で見つかったリン酸鉄も同様であれば、【火星】に生命活動があった可能性があることになる。

【火星】で見つかったのは、これだけではない。探査機・インサイトが迫ったのは、「生命のゆりかご」になりうる水の存在だ。
【火星】では「火震」と呼ばれる大地の揺れがたびたび起こることが知れているが、インサイトは、その震動を3つの装置でキャッチ。震源を特定し、伝わる速さから、内部の構造に迫ることが出来る。詳しい解析から、「地下10km、20kmのあたりで構造が変わるところがある」ことが分かった。

それがどんな構造なのか?実験で迫った日本の研究者が明らかにしたのは、
「地下10km~20kmのところに液体の水」が存在する可能性だ。
これは、重要な意味を持つと、広島大学・片山郁夫教授は、指摘する。

『現在も液体の水があるのであれば、生命がいてもおかしくない』

実際の所どうなのか?それを証明するためには、【火星】のサンプルを地球に持ち帰って、精密な分析をするしかない。今、日本の火星探査計画【MMX】でそれを実現しようとしている。目指すは、【火星】の衛星「【フォボス】」。【火星】の本体と距離が近く、【火星】の砂が存在すると言われている。
これまで、宇宙から何度もサンプルを持ち帰ってきたノウハウを生かした探査機。成功すれば、2031年、世界で初めて、火星圏からのサンプルリターンがかなう。

「人類は宇宙でひとりぼっちなのか」。
【火星】がその問いに答えてくれる日が着々と近づいている。

コラム 人類が火星進出をかなえた先に・・・

いつかかなうかもしれない、人類の【火星】到達。最初に到達した人類に待っているのは「過酷な環境で孤独に暮らす」という現実だ。

映像提供:NASA

その時、どんなことに直面するのか?NASAは、【火星】で生活することを想定した実験施設を建設。「CHAPEA」という実験で、実際に378日間、4人が暮らした。
最初に持ち込んだ資材以外、追加補給はなし。地球と【火星】との距離で生じる

通信のタイムラグ、最大22分も再現された。
参加者の一人、ケリー・ハストンさんが取材に応じてくれた。

『未開の地にやってきた探検家のようなものでした。最初のひと月は本当に大変で、施設での滞在を少しでも快適にし、外部とのコミュニケーションをうまくとる方法をずっと模索していました』 『この経験で思い出したのは、人間が集団の中で生きていくことの大切さです。同時に、私たちが潜在的に課題や困難を克服する能力を備えていることを実感することが出来ました』

待ち受ける困難を克服する力を、私たちは持っているのかもしれない。

Chapter2 新たなアイデアは無謀な挑戦から生まれる!?

人間にとって【火星】が過酷な環境であることに変わりはない。しかし、あえてその【火星】を目指すことで、革新的なアイデアが生まれるチャンスをつかめるかもしれないという。

例えば、【火星】の大気の主成分・二酸化炭素から、私たちに欠かせない「酸素」を生み出す技術が開発された。MOXIEと呼ばれる装置で、熱エネルギーを使って、二酸化炭素を分解、酸素を生み出す。探査機・【パーシビアランス】に載せて【火星】へ送り、実際に試したところ・・・
のべ10時間、人ひとりが5時間生きられる量の酸素を生み出すことに成功したという。

地球の生命システムを一から見直すことで、新しいアイデアが生まれた例もある。
カリフォルニア大学リバーサイド校のロバート・ジンカーソン准教授たちが注目しているのは、「植物」。実は、【光合成】は、光エネルギーの1%しか栄養に変える事が出来ず、効率が悪いという。太陽が降り注ぎ、屋外で栽培できる地球であれば全く問題ないが、「有害な放射線が降り注ぐため、基本室内で植物を栽培するしかない」【火星】では大きな課題になり得る。せっかく作った光エネルギーを99%無駄にしてしまうのは、エネルギーを生命維持に使う津必要がある火星環境では、「ロスが大きすぎる」のだ。

そこで、ジンカーソン博士らのチームは【光合成】の仕組みを一から見直すことにし、
「光を使わない、【光合成】のシステム」を考え出した。
光の代わりに「【酢酸】(CH3COOH)」を使うというものだ。
そもそも、二酸化炭素(CO2)を植物が吸収するのはそこに「炭素源」があるからだ。【酢酸】は、二酸化炭素よりも、炭素を多く含むため、より効率的に栄養に変えられると考えた。

実際にやってみたところ・・・
エネルギー効率を4倍に上げることに成功した。【酢酸】を作ること自体に必要なエネルギーも少ないため、有望な栽培方法になり得ると期待されている。今後、重力が小さい空間でも成立するか、国際宇宙ステーションなどで検証される予定だ。

さらに、栽培スペースを節約するために、植物を小さくするという改良も進む。
「宇宙農業」ともいえる、これまでにない産業が育ちつつあるのだ。

地球で植物という生命システムができる遙か昔から存在するものへも注目が集まっている。
キノコの根本に張り巡らされる「【菌糸】」だ。地球では、森の木などから栄養を取りながら成長、結合して固まる性質を持つ。この能力に注目したのが、NASA
エイムズ研究所のリン・ロスチャイルド博士。うまく培養すれば、人が乗れるほど頑丈なスツールができることを突き止めた。さらに、菌類が【火星】の砂も固めることも発見。【火星】の砂を使って巨大な空間を作ることも夢ではないと考えている。

『菌類を使って月や【火星】に居住地を作ろうと考えています』
『きのこを使うというのは、とんでもないとアイデアに思うかも知れません。しかし、彼らは、自己複製し、修復まで出来るのです』

映像提供:MycoHab Foundation

このアイデアは、建築家も大いに刺激。クリスさんは、【菌糸】を使ってレンガを制作。木材の入手が難しい砂漠地帯で実際に住宅を建てるプロジェクトを進めている。
【菌糸】には、二酸化炭素を吸収する性質もある。【菌糸】を使って、砂漠地帯に居住地を作れるだけではなく、地球温暖化対策への貢献も期待できるのだ。

『私たちは奇想天外なアイデアやテクノロジーをもっと取り入れていく必要があるでしょう』
(建築家 クリス・マウアーさん)

それでも人類は火星を目指す

映像提供:SpaceX

アラブ首長国連邦は、2117年までに【火星】に60万人都市をつくると宣言。民間企業も、100万人都市の建設を目標にするなど、人類の宇宙開発はますます活発になっている。

その一歩となる「【火星】行き」を実現しようと、巨大ロケットの開発も進む。
世界最大の121m、100人が乗れる「スターシップ」。宇宙空間に到達、ロケットの一部が地球に帰還するところまでたどり着いた。年に4回のペースで行われる飛行試験は、失敗も多いが、「よいデータが取れた」とひるまず続けられている。
【火星】が教えてくれたこと。それは、「自由な発想の先に未来がひらかれている」ということかもしれない。


深宇宙展でも【火星】の衛星【フォボス】からサンプルを持ち帰る挑戦を紹介します。
火星衛星探査計画「【MMX】」の2分の1模型も展示されるのでお見逃しなく!

特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」To the Moon and Beyond

【東京会場】

会期:2025年7月12日(土)~ 9月28日(日)
会場:日本科学未来館

【豊田会場】

会期:2025年10月18日(土)~2026年1月18日(日)
会場:豊田市博物館